Glanz
2007年9月
ブレーン/読みたくなる文字の使い方
 

写真と書体を大胆に調和させるデザイン

グラフィックデザイナーの大溝裕さん(Glanz)はこれまでに美術展のポスターやカタログを数多く手掛けている。以前に制作した『プーシキン美術館展』『北斎展』などは見るものを引き込む斬新なデザインが印象的だ。その力強く躍動的な書体をどのように選んでいるのか。近作を元に探った。


オリジナル書体で"生きる力"を表現

岡本太郎美術館で開催中の『アマゾンの侍たち ―人間・自然・芸術―』展は、岡本太郎の思想とアマゾンの先住民(カヤポ族)の生き様を紹介している。そのポスターやカタログからは、アマゾン先住民族のリアルな存在感、そして岡本太郎の生に対する息遣いが直に伝わってくるようだ。それは、先住民族の記録写真や岡本太郎の言葉そのものの力強さもあるが、書体の力と大胆に配列した文字が大きく影響している。この味のある書体は、既存のゴシック体をベースにアレンジしたもの。トレーシングペーパーを重ねて、その上から一字一字手描きでトレース。その文字をスキャンし、写真全面に載せた。「展覧会のテーマである"生きる力"や"勇気"を表現するには、この方法がベストでした。既存のDTPのフォントではニュアンスが出てこないし、写真の上に載せたときに文字だけ遊離してしまいます」。この書体だと、写真と文字が調和し人間の温かみが滲み出てくるから不思議だ。ただ闇雲にトレースしても駄目で、ほどよい文字の大きさを見極める感覚が試される。逆に、美術展情報は既存の書体を使用し、描き文字とのミスマッチ効果で目立つようにした。「オリジナルの書体を作らないと気がすまないというわけではなく、必要であると判断したから作りました。DTPの書体でしっくりくるものがあれば、そちらを採用したと思います。ただ今回は、時代性や原始的な雰囲気も出したかったので、このようなアナログの方法をとりました」。
一方、生誕80周年を迎える『勅使河原宏展 ―限りなき越境の軌跡―』のカタログでは、基本的に本文の書体は「明朝」を使用。前述の「アマゾンの侍たち〜」展のように、書体で特殊なことはほとんどしていないが、勅使河原宏本人が残した言葉を太字にし、本文との強弱をつけることで誌面に変化を持たせている。「草月流家元、映画監督、画家とさまざま顔を持つ勅使河原さんの創造に対する熱い思いを書体に落とし込みました。僕の場合、写真の上にわりと大胆に文字を載せることが多い。でも、写真に大きな文字が載るからといって、写真の力を壊すことになるとは思いません。むしろ、文字と写真がぶつかり合うことで、そのビジュアルの強度が増してくると考えています」。
16〜17世紀のイタリアの絵画・素描を約100点展示した「パルマ−イタリア美術、もう一つの都」展では、タイトルの大胆なロゴが印象に残る。
イタリア美術といえば、ローマ、フィレンツェは有名だが、"パルマ"と聞いて日本人が連想するのはサッカーの中田英寿選手の元ホームだったことぐらい。そこで美術拠点として日本では認知の低い"パルマ"美術にいかに関心を持ってもらうかということに注力したという。ロゴは美術展の6つのセクションを、パルマの地域性に根差した一つのイメージに落とし込むようにして作った。「ロゴの"P"の文字サイズを特大にしたのは、その方がパッと見た時の印象が強くなると思ったからです。イタリア美術ということで、大理石のような重厚で強いイメージのBodege Displayの書体をベースに幅を広げたり高さを調節しています」。


瞬間的に人の印象に強く残るグラフィック

美術展の仕事は「トリミングはいいけれど文字を写真の上に載せてはいけない」など規制が多く、事前に使用する写真や構成が決まっている場合もある。そのような制約の中で印象に残るものにするために、デザインや書体にアイデアが求められる。
「基本的にコミュニケーション手段として"瞬間的に人のイメージに強く残るグラフィック"を意識しています。たとえば、今回の『アマゾンの侍たち〜』のポスターはあえて、美術展らしくないものにしようと思いました。パッと見て映画の予告か、新刊の告知なのかわからないような仕掛け。その方が逆に生活者の目に留まるし、面白いのではなないかと思いました。比重としては岡本太郎の言葉が50%、アマゾンの写真が50%の割合。偏りなく見えるようにがないように配慮しています」。
美術展の仕事では、大溝さんはデザインだけではなく、プロモーションや広報戦略に携わることもある。はじめから総合的に関われる仕事では、プレスリリースから広告、そしてカタログまですべてを手がけることが多く、時にはコピーを考えることもある。
近年、大型の美術展の開催が増え、集客にあたってはポスターやチラシなどプロモーションに求められるものが大きくなっている。このジャンルにおいてはビジュアルの見せ方のみならず、多くの人にタイトルを覚えてもらうための文字の使い方がますます重視されていくだろう。


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