Glanz
2006年11月
+81 vol.34/Interview with 大溝 裕 from Glanz
 

+81:デザインの世界に入ったきっかけは何だったのですか?
Hiroshi Ohmizo(以下HO):何か特別なきっかけがあったわけではないのですが、僕が学生だった80年代初頭は日本グラフィック展などから日比野さんやタナカノリユキさんらが登場し、イラストレーションの世界がすごく元気だった時期で、僕も当時は、イラストを夢中で描いたり、コンペに出したりしていました。どちらかというとその流れの中でデザインの世界を知ったという感じですね。かと言って、これからイラストで、絵一本でやっていく覚悟があったかというと、そこまでの気持ちもなく、そんな中でデザインという仕事が目に留まり、それを魅力的に感じ、序々にそれが大きくなっていったという感じです。


+81:具体的にグラフィック・デザインのどういう部分に魅力を感じたのですか?
HO:例えば、学生の頃見た井上嗣也さんのポスターは力強く、ダイナミックで心にくるものがありました。その頃、デザインとかアート・ディレクションという仕事についてはよくわかっていなかったのですが、1枚の写真に文字を入れるということだけで、衝撃的なひとつの世界観を作り上げてしまうデザインの力ってすごいと思ったわけです。


+81:水谷事務所で6年間働いていたわけですが、そこで培い、今に繋がっている経験は何ですか?
HO:水谷の口癖で「デザインという仕事は、机上での仕事は全体の1/10ぐらいのことで実は残りの90%がすごく重要なんだ」っていうことをよく聞かされました。机上でのデザイン作業はもちろん重要だし、そこで得たこともたくさんあるのですが、それ以前のところでモノを作るということはどういうことなのか、それがどれだけ大変なことなのかということを肌で実感できたことが、今となっては一番自分の力になっていると思います。例えば仕事の依頼が1枚のDMであっても、それを丁寧に作ることはもちろん、さらにそこから必要に応じてその仕事をいろいろな方向に広げたり、予算のやりくりにしてもクライアントとの折衝から、どこからお金を持ってきて、それをどうやって運用するのかも含めて、それもデザインで、モノを作るということはそういうことなんだってということを経験しました。


+81:これまで紙媒体を中心に手掛けていますが、紙自体の魅力についてはどうお考えですか?
HO:紙特有の物質感やそこに印刷のインクがのったときのにおいや存在感みたいなものに魅力を感じますね。一般の人にとっては紙はただの紙切れで、日常的に特に意識したりする存在ではないと思うのですが、きっと瞬間的だったり感覚的にはその良さは同じように伝わっているものだと思っています。


+81:エディトリアルと広告、それぞれの魅力について教えてください。
HO:エディトリアルや本は実際にお金を出して買ってもらうわけで、反応がダイレクトで、それが実感できる喜びがありますよね。広告の場合は、それを通して世の中を動かすようなダイナミズムがある。それらは多少質が異なりますが、どちらも魅力的です。ただ、作っている上ではそれらを特に区別することはありません。僕はエディトリアルの1ページも一枚のポスターと同じくらいの感覚で捉えています。それが連なっているので当然流れを意識したりすることはありますが。


+81:デザインの対象物が異なる中で、モノ作りに対する一貫したポリシーやスタイルはありますか?
HO:特に日頃の仕事の中でポリシーやスタイルを意識することはないですが、先日ある美術館の学芸員の方に、「大溝さんのデザインはVIVAだよね」と言われました。その時嬉しく感じたのと同時に、言われてみれば僕はネガティヴな表現をあまり好まないし、していないなと思いました。そういったポジティヴな表現が形として表れているということは、結果的にはそれが軸となっているのかもしれません。また、よく人からデザインが「土っぽい」とか「強い」「大きい」とか言われることがあります。それは僕自身が奈良県の田舎で生まれ育ち、幼い頃に山や田んぼで遊んでいた中で、自分の体に刻まれたものであり、自然と僕の手から出てくるのだと思います。ただ、スタイルというのはもっと意識的に、時には戦略的に作り上げていくものだと思うので、その点では僕はスタイルを全く意識していませんね。デザイナーにとってスタイルとは何か、重要かどうかといったことを考えたりはしますが、まだ僕の中で結論は出ていません。


+81:では、自分のデザインの作風や制作過程に変化を感じた時期はありましたか?
HO:当然経験のないところから始めているので、未熟だった部分は経験を重ねていく過程の中で序々に変化していると思います。ただつくづく思うのは、自分の根底にある好きなものや個性やクセみたいなものは昔から何も変わっていないということ。それを普段意識しているわけではないですが、それはずっと変わらないものなのかなとは思ったりします。


+81:最近は美術展や企業のCIをはじめとする、包括的なプロジェクトを数多く手掛けていますね。
HO:デザインをする側としては、そういった依頼のされかたが一番やりがいがあるし、楽しいです。例えば美術展などの仕事では、ポスターなどあらかじめ媒体など決まっている場合がほとんどですが、たまにそうではなく、「こういう企画でこういう展覧会だからこれだけの人を入れたいので、どうプロモーションをしたらいいか、すべて企画から一から関わってほしい。」というような依頼もあるわけで、それこそデザインの醍醐味です。


+81:アート関連の仕事はどのようなアプローチで進めていくのですか?
HO:アート関連でもその他の仕事でも基本的には変わりないですが、例えば、一般的に現代美術は様々な美術展の中でも集客率が低いカテゴリーとされています。僕自身は現代美術が好きなので「みんな食わず嫌いなだけで、実際に足を運んで見れば楽しめるはずだ」と思っていて。なので、例えばそういった現代美術展の仕事をする時は、できるだけ間口を広げた表現を心掛けています。そうすることで、より多くの人に関心を持ってもらい、現代美術の面白さに触れてもらえるんじゃないかなと。また意外にありがちなのは、美術館は展覧会を企画する側なので、作品や作家側のスタンスにたって物事を考える傾向があり、訪れる側の視点への理解が疎かになっていたり、ずれていることがある。だから僕はできるだけ見る側の立場でものを考えるようにしています。


+81:これまでいろいろなデザインに触れてきて、大溝さんが感じる一番重要なデザインの基準はどういったものですか?
HO:様々な見方があるので、一番重要なデザインの基準は何かといわれると難しいですね。しいていうのであれば、きちんと人に届かないとダメなので、やっぱり一目をひくとか、ひっかかるとか。そこが抜け落ちているとダメじゃないのかなと思います。そこが入り口なので。


+81:グラフィック・デザインを自身の言葉で言い換えるとしたら、どのように表現しますか?
HO:難しいですね。コミュニケーションの手段といってしまえばそれまでですが、それ以上にものの見方や価値観を変えるような力を持っていると思います。確かに今はグラフィックだけに限らずある意味デザイン・ブームと言えるかもしれません。でも、グラフィック・デザインはまだその力の10の1程度の力しか発揮されておらず、活かしきれていない気がするんです。もちろん自分も含め。本当はもっと可能性があることにみんな気づいていると思うんですが。グラフィック・デザインは何もかも取り込むような大きなものであるはずなのになっていう感じはしています。


+81:その可能性を高めていく方法はどういったものだと思いますか?
HO:日頃の仕事からそういう意識を持つことではないでしょうか。僕もなかなかできていないんですが、例えばポスター1枚の依頼だったら、そのポスターだけで完結するんじゃなくて、グラフィック・デザインでこの仕事で他に何ができるか、もっと大きな視点でデザインを考える。常にそういう意識を持つようなことでしかないのかなと思います。


+81:そういった意識を感じるデザイナーは思い浮かびますか?
HO:今、特に誰々と名前は出てきませんが、みんなその10%の壁を突破しようと日々格闘しているのではないでしょうか。その熱は様々なところで感じたりはします。


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