Glanz
2004年10月
デザインの現場/つくり手と受け手の意識の間でひらめく直感


2000年の開設以来、地元ゆかりの作家と本をめぐるアートの紹介を二本柱に、独創性に富んだ展覧会で注目を集めている「うらわ美術館」。そのCIをはじめ、企画展のポスターやカタログのデザインを数多く手がけているのが大溝裕さんだ。抽象的なテーマも多い中で、企画の意図を的確に反映させた、見る者の想像力をも刺激する完成度の高いデザインには定評がある。


「自分だったら、どんなポスターであれば見に行きたくなるか。どんなカタログだったら欲しいと思うか。そういう視点から企画内容を考えると、制作物はこんなたたずまいかな、というのが直感的に見えてきます。例えばカタログだったら、これは大判の方がいいのか、それともコンパクトな方がいいのか。文字の扱いは大きくするのか、すっきりと小さくまとめるのか。そういったイメージは、最初の打ち合わせの段階で大体つかめます。美術館の仕事で一番考えるところは、展示物をどういう形でカタログに落とし込むか。展覧会とカタログって、全く別物だと思うんですよ。企画によっては、そのままの形で掲載するよりも部分的にクローズアップした方が展覧会の意図をより表現できる場合もありますから」


ポスターには集客効果、カタログには資料としての価値と、それぞれに必要な要素と魅力を備えた質の高いデザインを生み出せるのも、つくり手としての卓越したセンスと受け手としての冷静な目を持ち合わせていればこそだろう。企画内容を聞いた時点で、瞬時に判型や体裁から、手にした時のイメージまで具体的に想像できるほどの優れた「直感」も、そうした視点に基づく豊富な経験から生まれるものにほかならない。 うらわ美術館のほか、埼玉県立近代美術館の常設展ポスターも毎回手がけている大溝さんだが、最近では担当の学芸員に自らこんな提案をしているという。


「できれば企画から参加したいんですよね。展覧会自体の見せ方も一緒にできれば、ポスターとイメージを連動させることもできるし、全体を通してより立体的な表現が可能だと思うんですよ」
通常、グラフィックデザイナーが企画から携わることはまずないが、それをあえて望むところに大溝さんの表現者としての強い好奇心と探究心がうかがい知れる。実際、大溝さんの作風には幅があり、端正で詩的なものからポップなものまでさまざまだ。speenaのCDジャケットは後者の作風を示す好例だろう。ノスタルジックな中にもガーリッシュロックバンドらしい毒々しさをきかせた田園風景のジオラマで、美術館関連の作品とは一転したキッチュな世界を表現。スタイリストを介さず、スタッフの赤松幸子さんと二人で考えたというフランスパンやマカロニを風景に見立てたアイデアも、なんともユニークで可愛らしい。


また、動物をモチーフにした子供靴を展開するナイキプレイのカタログも秀逸だ。子供が楽しめるようなものにしたいというクライアントの要望に、大溝さんは動物を主役にした絵本形式を提案。今年のバージョンでは、穴から次のページに登場する動物の体の一部が見えたり、見開きごとにがらっと色を変えたりと、子供の想像力をかき立てる仕掛けにも工夫を凝らした。


「キャラクターの落としどころや絵のトーンなどについては、最初の段階でイラストレーターやコピーライターとよく検討しました。昨年は最終的に商品に落とし込んだ“絵本風”のカタログだったんですけど、それだと子供は飽きてしまうことも。ナイキのスタッフからの提案もあり、二作目は“絵本”として割り切って、子供の目線でページごとにワクワクするような驚きのある構成を考えました。大人にとっても見応えのあるものだと思うので、親子で楽しんでもらえたら嬉しいです」


独立を機に、広告中心の仕事からエディトリアル、グラフィックへと着実にジャンルを広げてきた大溝さん。「エディトリアルやカタログは手に取ってくれた人にダイレクトに届く喜びがあるし、広告には世の中を動かすダイナミズムがある。どちらもそれぞれに魅力的だし、広告は最近ご無沙汰しているので、そろそろまたやりたいですね」と次なる展開にも意欲を見せる。磨き抜かれた「直感」を武器に、大溝さんのデザインの世界は今後まだまだ拡張していきそうだ。


取材・文/杉瀬由希
掲載誌/「デザインの現場」2004年10月号 美術出版社刊



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